興味がわくコンタクト
若い人たちを相手に「老人」という言葉で連想ゲームをしてみましたら、「灰色」「弱い」「病気」「病院」「古い」「遅い」「頑固」「よぼよぼ」といったマイナスのイメージを持つ語が次々と出てきました。
そこで、もっとプラスイメージの語も入れてくれとコメントしたら、出てきたものは、「優しい」「かわいい」「穏やか」「癒される」「ほのぼの」「信頼」「経験」「物知り」「知恵袋」「包容力」「円熟」「老練」「老桧」などでした。眼や視覚に限ったことではありませんが、加齢とそれによる変化は粛々として受け入れる成熟度、いや老練な円熟味を持ちたいものです。
あなたは、そのために年数を重ね、ものを考え、さまざまな体験をし、経験を積んできたのですから。書けば簡単なようですが、実際にはそうはいかないのが、人間というもののようです。
その証拠に、本屋さんには「アンチエイジング」の本が山というほど並んでいます。テレビなどのメディアで取り上げられると、日本中、品薄になるほどのブームになりました。
今や、コエンザイムQのようなアンチエイジングを含む健康食品として売られる各種サプリメントの日本の市場は全体で2兆円近くになり、薬局で医師の処方菱なしに買える一般医薬品の市場の2倍をはるかに越える、大きな規模となっています。これほど、人々は健康増進、不老長寿と聞くと、節度がなくなってしまうのです。
それは、平和の産物とも言え、おめでたい話ではあるのですが。このようなことは今はじまったことではなく、秦の始皇帝も、平安時代以降の日本の天皇や公家も、自らの不老不死のためにいろいろなことをしています。
もちろん、どれも科学的根拠はないに等しいもので、不老不死など実現できるわけがありません。今日のように、科学も発達し、風評ではなくて真の根拠が得られやすくなってきた時代の人間の姿勢としては、加齢変化、老化というものの本来の姿、つまりノーマルエイジングというものをできるだけ科学的、客観的に理解して、それに対応してゆくのが正しい姿だと私は思います。
「M」(U訳、K書店)という著書のなかで、著者である健康医学研究者A氏は、「老化を拒絶し、老化に抗しようとする選択は逆効果であり、人生経験の重要な側面を理解し、引き受けることに怠慢な生き方であると、わたしは感じている」まず、精神の問題のはじめに、「ストレス」を取り上げています。人生はストレスフルなもので、それをすべて排除するなどということは選択肢にならないとしています(ストレス保存の法則)。
そして、ストレス反応を媒介する副腎皮質ステロイドたるコーチゾールは、脳と感情を司る神経単位(ニューロン)に対して直接的に毒性を発揮すると言っています。次いで、活動のための自律神経である交感神経と、休息用の自律神経である副交感神経を対比させています。
つまり、交感神経の興奮は心拍数、血圧、血糖値、コーチゾール値を上昇させて、血流を体表から体内の中心部へと移行させます。すると冷えが生じ、消化活動が低下します。
そして、代謝障害、内分泌障害、免疫障害が出やすくなり、また不安、睡眠障害、神経過敏、孤独感などが生ずるのです。一方、副交感神経が優位になると、心拍数、血圧は低下し、体内の中心部に集中していた血液の分布が広くなり、消化管が円滑に働き、代謝や免疫が最適化します。
さらに、幸福感が生じ、他者への共感につながり、緋を深めやすくなります。ヘルシーエイジングの主な阻害要因は、交感神経の過剰な活動にあるとし、慢性病も発現しやすくなると考えられます。
その根底には老化は決して逆転できるものではないという極めて尋常な理解があって、彼は、徒なアンチエイジングに警鐘を鳴らしているのです。その著書の第二部は「潔く優雅に老いるには」と題して、人間を全体として捉えるのには身体、精神、霊性(スピリット)の3つの要素の統合が必要だとして、それぞれについて論じています。
「精神」についてのW氏の考え方に、我々が老化を理解し、対応するために関心を寄せるべき捉え方が含まれていると私は感じたので、ここで少しだけ紹介しておきましょう。この点を、私が外来でよくみる癌痛性障害(眼や眼周囲が痛み)で日常生活に相当な支障をきたしているので、あたかも眼に病気があるように思えるが、眼には異常がない。
意志に反して険が閉じてしまったり瞬きをしてしまう。どちらも、治りにくいという点で、慢性病です。
そしてその根底にはストレスフルな環境が働いていると思われます。その状態は具体的に記述できるものとは限らず、精神的、身体的に絡み合ったストレスであったり、薬物や化学物質による影響であったり、それらの複合であったりするでしょう。
また、発症には、個体側としてはストレス抵抗性が弱いといった、生来からの(多分遺伝子で規定されている)因子が必要条件かもしれません。いずれにせよ、その人にとって過剰な交感神経優位な状態が連続することで、身体の快適性に破綻を来たし、痕痛性障害や眼険けいれんなどに定義されるような病態を作ってしまうと考えられます。
他の眼や身体のいろいろな慢性疾患の発症や経過においても、同様なプロセスが関る可能性があります。また同時にそうした病気や症状が存在することによって、ストレスフルな状態がさらに促進されてしまう可能性も推定できます。
老化は病気ではありませんが、交感神経が過度に優位な状態が連続すれば、やはりそれを促進してしまうことは、十分に考えられます。もちろん、加齢に関する要素はこうした神経系の問題だけに限りません。
更年期に関わる性ホルモン(女性ではエストロゲン、男性ではテストステロン)の分泌低下や、代謝の過程で生体内に生じて細胞に傷を負わせるフリーラジカル(活性酸素のような遊離活性基が老化の元凶だという前提での研究アプローチも盛んにあります。ビタミンCなどフリーラジカルを消去するような作用を持つ健康食品が老化防止に良いといった宣伝を見聞したことのある方も多いでしょう。
ストレスそのものを減らすことができれば、それは確かに良いわけですが、ワイル氏は、ストレス保存の法則と称してそれはなかなか無理だと言っています(彼は自分自身の経験から、ある領域のストレスが減ると、必ず他の領域でのストレスが増えるというのです)。そこで必要なのはストレス抵抗性の強化、ストレス制御法です。
眼科医のTK大学教授は、眼や身体のアンチエイジング、抗加齢医学に情熱を燃やす研究者の一人ですが、加齢変化のすべてに抵抗できないわけではなく、生物学的過程だから医学的介入が可能だと主張しています。ストレスそのものを減らすことは簡単ではありませんし、加齢自体に真っ向から逆らうことはなかなかできないことです。
しかし、加齢にブレーキをかけるか、逆に促進させるかは、その人の生活習慣の中で決まってゆく部分が確かにあると考えられます。では、ストレスに抵抗する方略はあるでしょうか。
自律神経に注目して言えば、交感神経優位な状態を、副交感神経優位に上手に切り替えれば良いのです。つまり、頑張っている状態をひと段落させて、休んだり、睡眠をとったりすれば良いのでしょう。
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